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中高年の膝




変形性膝関節症について

中高年の方の膝痛で、リハビリや東洋医学的治療ではどうしても解決しない場合、手術を検討することになります。『膝(ひざ)の手術』と一口で言ってもいろんな方法がありますが、大まかに次の3種類に分けられます。

①関節鏡の手術
②曲がった膝を矯正する手術
③人工関節置換術

『膝 (ひざ)の手術』というと多くの方が③の人工関節をイメージされるようですが、人工関節が必要となるのは症状末期の方だけです。ほとんどの方は『関節鏡の手術』か『膝の矯正手術』で対応可能です。ではどのような基準で手術方法が決められるかというと、大まかには次のように考えてください。

膝が曲がっていない方 → ①関節鏡による手術
膝が曲がっている方 → ②曲がった膝を矯正する手術、
重症例は → ③人工関節置換術

その他に年齢や体重、痛みの原因となっている部位(半月板や軟骨)などを考慮し手術方法を決定します。それぞれの手術内容と術後のリハビリなどにつきご説明します。

関節鏡の手術

手術方法

膝(ひざ)に5mm程度の孔を2、3ヶ所に開け、直径4㎜の関節鏡を膝の中に入れます。そして関節の中の様子をテレビモニターに映しながら手術を行います。手術では、半月板の壊れた部分を切除したり、軟骨のカケラを取り出します。『膝の中の大掃除』と思っていただければいいでしょう。

麻酔は硬膜外ブロックと局所麻酔を併用しますが、麻酔がかかるのは主に膝(ひざ)の部分だけです。ただし、手術前に少し眠くなるお薬を飲んでもらいますので『気がついたら手術が終わっていた』という感じになります

術後の経過

入院はほとんどの場合1泊2日です。退院後の診察は、初めの1週間は1日おき、その後1〜2ヶ月は1週間に1回程度となります。この後の経過観察の必要性は個人差があります。県外など遠方の方は電話での診察を行い、通院が最小限になるようにしています。術後の安静期間は手術の内容にもよりますが、術後2〜3日は自宅安静が必要です 。

デスクワーク程度は手術翌日からでも可能ですが、歩き回ることが多い仕事や立ち仕事、重いものを運ぶ様な仕事は1〜2週間の休暇をとっていた方が無難です。

関節鏡手術の守備範囲

私は陳永振先生の東京のクリニックで約5年間、関節鏡の勉強をさせて頂きましたが、この間に手術テクニックもさることながら、『どのような膝の痛みが関節鏡で治せるのかの見極め』を学ばせていただき、これが大きな財産となりました。もちろん関節鏡だけで膝の痛みがすべて解決できるわけではありませんが、関節鏡の手術は膝の痛みを治すのに非常に有効な手段であることがわかりました。

他院で人工関節を薦められた患者さんでも膝の状態を詳しく診てみると、痛みの原因となっているのはごく限局した部分だけであり、関節鏡の手術で十分対応可能なことも珍しくありません。もちろん他院で人工関節を薦められたぐらいの膝ですから、レントゲンだけを見ると相当変形しているのですが、こういう患者さんの膝を詳しく触診してみると、ある一点だけに圧痛がある場合があります。

実際に関節鏡でこういう患者さんの膝の中を見ると、ちょうどその痛みのある部分の半月板が割れています。このような場合は半月板の割れているところを少し削ってやるだけで、痛みがまったくなくなります。 また患者さんの社会的状況から、完治は望めなくても当面の痛みを関節鏡で取り、退職後に膝の矯正手術などの根本的治療をしたいという方もおられます。また歩くのは普通に歩いておられ『正座をしたときだけ痛い』とか、『ゴルフのスイングで軸足になるときだけ痛い』と言われる方もいます。こういう場合も関節鏡は威力を発揮します。

曲がった膝を矯正する手術

O膝(膝と膝の間が開いた状態)やX膝(膝と膝の間が閉じた状態)などの曲がった膝をまっすぐにする手術です。

日本人の場合はO膝(膝と膝の間が開いた状態)に変形する方が多く、当院でもO膝の手術数はX膝の20倍ぐらいです。

手術方法

この手術を行うときは、まず先ほど説明した関節鏡で膝の中の壊れた半月板や軟骨のカケラを取り出し、更に炎症を起こして厚く膨らんでいる関節の膜(滑膜) をきれいにします。さらに硬くなっている組織を緩める処置も行います。O膝を矯正する手術にあたり、この関節内の処理は不可欠のものです。

関節内の処理が終わったら引き続き、骨の矯正を行います。正確には『高位脛骨切り術』といいますが、厚さ2㎜程度の「ものさし」に似た形の手術器具で膝の下の骨(脛骨)に切り込みを入れ、曲がった骨を少しずつ矯正していきます。

たとえば膝の角度が185度の膝を168度に矯正する場合は、切り込みのところを 17度開きます。曲がった骨を目的の角度まで矯正したら、特殊な金属のプレートとスクリューで固定します。矯正により開いた骨の隙間には人工の骨(ハイドロキシアパタイト)を埋め込みますが、この人工骨は約1年で吸収され、すべて自分の骨に置き換わります。

術後の経過

手術日のみ止血のためシーネ固定を行いますが、手術の翌日から包帯のみとなります。車椅子に移ったり、洗面やトイレが出来るのは、早い方なら手術翌日から、遅い方でも4,5日もすれば患者さん一人で大丈夫です。

入浴は抜糸の後からになりますので、手術後2週間ぐらい経ってからになりますが、シャワーは5日目ごろから可能です。リハビリは術後3日目頃から足上げ運動や膝の曲げ伸ばし、7〜10日目頃より歩行訓練、2〜3週間で1本杖歩行となります。ほとんどの方が3〜4週間で退院となります。若い方(60歳以下)であれば、手術後10日前後で松葉杖を使い退院しデスクワークぐらいは可能です。

遠方の患者様の対応

当院には遠方からも手術を受けに来られる患者さんが沢山います。O膝の患者さんの骨の矯正の手術を平成19年の1年間で83件行いましたが、このうち福岡県内は67人(市内30件、市外37人)、福岡県外は16人でした。

県外の患者様で退院後の通院が困難な方は、当院の協力医療機関(早良病院、那珂川病院、小西第一病院、神代医院)に転院していただき、さらに2、3ヶ月リハビリを続けることも可能です。退院後6ヶ月間ぐらいは、1ヶ月に1回程度の経過観察を行います。県外の方は電話再診も可能です。

一年後に金属を抜く

手術のときに使用する金属は人体には無害ですが、1年後には骨が完全に出来てしまい、それまで骨を支えていた金属はその役目もなくなります。

またこの金属は局所麻酔の簡単な手術で抜くことが出来ますので、当院では手術をして1年後に金属を抜くことをお勧めしています。金属を抜く手術の際は福岡市内の方であれば2〜3日、遠方の方は10日前後入院していただきますが、歩行は手術翌日から可能です。

人工関節置換術

人工関節の最大の特徴は、どんなに変形が進行した膝でも手術可能ということです。膝の変形が進んだ方は、軟骨だけでなく靭帯なども切れてしまっている場合があります。このような場合は関節鏡や骨の矯正手術では限界で、人工関節の出番となります。また人工関節は関節リウマチなどで高度に変形してしまった膝でも手術可能です。人工関節の手術は膝の関節面を削って特殊な金属で被い、金属と金属の間に人工のクッションを入れます。したがって痛みは術後早期からなくなります。人工関節の手術は術後の出血量が多いため、当院では『自己血液還流システム』を利用し、手術したところから出た血液を回収して、フィルターを通して再び体に戻す方法をとっています。したがって他人の血液を輸血したり、手術前にあらかじめ自分の血液を貯めておく必要はありません。

また人工関節には耐用年数があり、あくまで使い方、個人差(体重など)にも大きく左右されますが、一般的には15〜20年と言われています。年数が経って不具合が出てきた場合は、もう一度新しいものと入れ替えることになります。リハビリは上記の『曲がった膝を矯正する手術』とほぼ同じで、入院期間も3〜4週間です。

以上、『中高年の方の膝の痛み』に対する治療法をご説明しましたが、どの治療法が最適なのかをよく吟味する必要があります。そのためにはレントゲン検査や MRI検査が重要なことはもちろんですが、『いつから痛むのか』『膝のどこがどういう時に痛むのか』などといった問診や触診、体格や足の筋力、生活習慣やスポーツの頻度などの個人差を十分考慮する必要があります。

年齢制限なし

手術テクニックや麻酔の進歩により、これらの手術には年齢の制限はほとんどなく、当院では最高94歳まで経験があります。どんなに痛い膝でも、杖をついてでも『自分の足で歩ける』方であれば、年齢に関係なく手術は可能です。

また中高年ともなると、内科的持病をお持ちの方もたくさんおられますが、よほど重症でなければ、多少の心臓病や高血圧、糖尿病、肥満があっても手術は可能です。

唯一の例外は、心臓の弁置換術等を受け、血液を固まりにくくするワーファリンというお薬を飲んでいる方です。この場合は手術の前後で一時的にこのお薬を止めなければならず、循環器内科との連携が必要になりますので、総合病院で手術を受けてもらわなければなりません。

ただし、いわゆる『血液サラサラ』系のバイアスピリンなどは問題なく、手術当日もお薬を止める必要はありません。

膝の骨壊死症について

膝の病気で変形性膝関節症と似て非なるもので『膝の骨壊死症』という病気があります。

これは症状が変形性膝関節症とよく似ていますが、正しい診断と、正しい治療方針が示されていないケースが多く、患者さんが非常に困っていることが少なくありません。

『膝の骨壊死症』は難しい病気ではありますが、治療方法は確立されており、『治る、治せる病気』ですからご安心ください。

骨壊死症の初期はレントゲンでは分からない!

中高年で膝が痛くなる原因として最も多いのは『変形性膝関節症』という病気で、これは膝関節の表面の軟骨が少しずつ磨り減っていく病気です。『膝が痛い』と言って整形外科や整骨院、鍼灸院などに通っておられる中高年の方は、ほとんどこの『変形性膝関節症』です。

ところが症状は変形性膝関節症と似ていても、病態がまったく違う『膝の骨壊死症』という病気があります。これは原因なく、あるとき突然骨の中の細胞が死んでしまう病気です。変形性関節症は骨の表面を覆う軟骨が少しずつ擦り減ってくる病気ですが、『膝の骨壊死症』は骨の内部から突然発症します。

この病気の厄介なところは、初期の段階での診断が難しく、発症してから2ヶ月ぐらいはレントゲン検査でもほとんど分かりません。レントゲンで異常なしと判断されると、一般的には軽度の変形性膝関節症と診断されてしまいます。

当院で『膝の骨壊死症』と診断された方の多くは、それまで別の医療機関で治療を受けておられます。ほとんどの方が共通して言われるのは、『こんなに痛いのに、今までかかっていた病院ではレントゲンはきれいだから大丈夫』ということです。先ほども申しました通り、『膝の骨壊死症』は発症しても初期の段階ではレントゲンには写りませんから、当然といえば当然な話です。

MRI検査で確実な診断

では『膝の骨壊死症』は初期の段階では診断できないかというと、そうではありません。問診や膝の診察とMRI検査で確実な診断ができます。『膝の骨壊死症』はMRI検査をすれば初期の段階でも発見できますが、MRI検査は時間も費用もかかりますから、もちろん闇雲に行うわけにも参りません。MRI検査をするにはそれ相応の根拠がいります。

一般に中高年の方が『膝が痛い』と言って来院された場合、多くの医師や治療家は普通『膝の骨壊死症』は考えません。何故かと言うと、軟骨が磨耗して起こる変形性膝関節症に対し『膝の骨壊死症』は非常に稀だからです。患者さんを何十年も診ていても『膝の骨壊死症は診たことが無い』という医師や治療家は決して珍しくありません。当院では『膝の患者さん』が毎日多数来院される関係で、毎月数名は『膝の骨壊死症』と診断される方がいますが、一般外来では非常に稀な病気なのです。

『膝の骨壊死症』とはどういう病気?

はっきりとした原因は現在でも分かっていませんが、一番有力な説は『局所循環障害説』です。つまり、骨の中の血流が突然途絶えて、その周囲の骨の細胞が死んでしまうと考えられています。

最も多い年代は60歳代後半ですが、中高年であればどの年代にも起こります。症状は『膝の痛み』『膝に水が溜まる』が主で、これも変形性膝関節症とよく似ています。最初の1〜2ヶ月は症状が非常に強いのが一般的で、その後少しずつ落ち着いていくケースと強い症状が続くケースに分かれます。強い症状が続く場合は手術を受けてもらいます。

症状が落ち着くケースは、骨壊死そのものが治るわけではないのですが、痛みや腫れが少しずつ和らぎます。このような患者さんは歩いている姿は普通に見えますが、『痛くないかと言われると、痛みが無い訳ではない』と多くの方が言われます。その『痛み』の程度も個人差があるようで、月に1〜2回、あるいは年に数回当院を受診し、診察を受けられます。この状態で何年も過ごし、やがて納得して来院されなく方もおられますし、この後で説明する手術を受けられる方もいます。

根本的に治すには手術が必要

『膝の骨壊死症』と診断されると、上記の様に症状が自然と落ち着くケースもありますので、通常は1〜2ヶ月様子を診ます。しかし1〜2ヶ月様子を診ても一向に改善がみられない場合や、『毎日痛くて早く治療してほしい』といわれる患者様は手術を行います。

手術は、変形性膝関節症の手術でご紹介した①関節鏡による治療(壊死部を取り除いたり、ドリルでの穴あけ)と、②膝の矯正術を同時に行います。手術をすると約1ヶ月で1本杖歩行可能となり退院できます。退院後1,2ヶ月は杖を使用してもらいますが、その後は何もいりません。正座は個人差がありますが、手術後半年から1年でほとんどの方が正座可能となります。

終わりに

以上、変形性膝関節症、膝の骨壊死症について説明してきましたが、いずれにしても確実な治療方法があります。中高年になって膝の痛みがあると、必然的に運動不足、肥満となり高血圧症や糖尿病などの成人病を誘発します。『風邪は万病の元』といいますが、『膝の痛みは成人病の元』です。膝が痛いのは『年のせいだから仕方ない』とあきらめないで、自分にあった治療法を一日も早く見つけてください。

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