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ファスティング体験談

2017.11.13

医療法人 堺整形外科医院

相談役 堺研二

西区の新クリニック開業前で皆が一番忙しくている時、私は4日間もお休みを頂き11月3日(金)~6日(月)ファスティング体験をしてきましたのでその報告をします。3日~5日までは笹栗町のファスティング専門旅館「若杉屋」で過ごし、5日~6日は場所を笹栗町の亀ノ屋旅館に移して一人で山歩きして森の中で瞑想などして6日のお昼に帰宅しました。

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ファスティングとは日本語で言えば断食ないし絶食という意味です。ファスティングにはいろんな方法があるようですが、今回私が体験したファスティングでは、固形物は全くとらずに酵素水のみを取りながら行うものでした。若杉屋で使用されている酵素水は自然農法、無農薬で栽培された約70種類の野菜と果物を熟成濃縮させて作られたものです。バケツ一杯分の野菜と果物がコップ1杯分に濃縮された酵素水でした。この酵素水30ミリリットルを還元水で6倍に薄めたものを初日は3杯、2日目は5杯、3日目は1杯飲みますが、酵素水コップ一杯分(原液は30ミリリットル)のカロリーは約80キロカロリー、糖質は約12グラムで、5杯飲んだとしても糖質は1日60グラムであり、我々が推奨している糖質制限の観点から見ても糖質は許容範囲でした。酵素水の味は6倍に薄められたものでも私にとってはかなり甘すぎ、別のコップに還元水を入れて 一口ずつ交互に飲んでいました。

空腹感については、私はこの4年間厳密な糖質制限をしているため普段からあまり空腹感を感じませんが、他の参加者もこの酵素水のためか極端な空腹感はない様でした。

 

若杉屋のファスティングはワークと呼ばれるメニューが豊富でストレッチ、 ヨガ、呼吸法、森林セラピー、瞑想、ハンモックセラピー、写経、お遍路体験(88カ所の内の2か所)、食事指導等々で退屈することはありません。私にとっては、ファスティングそのものよりヨガやストレッチの方が大変で、五十肩にはかなり辛いストレッチも少なからずありましたが、講師の方がとても上手く 指導してくれ、どうにか3日間のメニューを過ごすことが出来ました。

ヨガでは普段使わない筋肉に負荷をかけるため、全身のあちこちにハリ感が出ましたが、これは長時間の手術後に生じる筋肉痛とは全然違う「イタ気持ちいい」という様な感触でした。ヨガをやってみて一番驚いたのは、腸の動きがとても 活発になったことでした。これは多くの参加者も同じようなことを言っていましたが、とにかくお腹がゴロゴロ、ゴロゴロと動き出します。「これはお腹を壊したのかな?」と思うくらい腸が動くのですが、講師の方に聞くと腸を刺激するヨガの動きによる効果とのことでした。私は普段から便秘とは無縁ですが、それにしてもファスティング中のヨガ効果による腸の活発な動きには驚きました。ネットで調べてみると、確かに便秘にヨガがいいと云う記事がたくさん見つかります。今回私は生まれて初めてのヨガ体験でしたが、ヨガ恐るべしです。

そこでふと思ったのですが、もし、誰かをファスティングという事前情報なしで若杉屋のファスティングに参加させ、合宿終了後に「どういう合宿だった?」と聞いたら、多くの人が「ヨガの合宿だった」と答えるかもしれません。

 

3日目の最後に参加者がそれぞれ感想などを述べましたが、今回の参加者10名の内、ダイエット目的は2,3人で、その他は私を含め心身のリラックス、食生活の見直しが目的の様でした。そしてほとんどの参加者が今回のファスティングのプログラムに十分満足している様子でした。気になる体重は、参加者 全員がこの3日間(正確には3日の13時から5日の7時までの42時間)で1~3キロの減少でした。ちなみに私は1.9キロの体重減でした。

 

ファスティング初日から2日目にかけて、参加者の3~4割ほどがファスティングの副作用なのか大なり小なり頭痛や嘔気を訴えていました。ファスティング時の頭痛は最もよく出る症状のようでその原因は諸説あるようですが、普段から糖質制限をしている私には頭痛などの副作用は全く起こりませんでしたので、この現象には血糖値ないしはケトン体が関係すると思われます。

ファスティング初日は朝から完全絶食でお昼過ぎに旅館に集合し、午後2時ごろ最初の酵素水を飲みます。酵素水はコップ一杯当たり計算上約12グラムの糖質が含まれていますが、この糖質はほとんど果糖と思われるので血糖の上昇はありません。(果糖は糖質の一種ですが、腸から吸収されると直ちに中性脂肪に変換されるため血糖値にはほとんど影響しません。)そこで3食ともお米やパン、麺類などの炭水化物中心で糖質たっぷりの食事をしている普通の人は、少なからず低血糖になっていたのか、ないしは急に糖質不足、エネルギー不足となってケトン体が上手く利用できない状態だったのかもしれません。ただし、全ての参加者が3日目には頭痛などの副作用は解消していましたので、糖質たっぷりの生活をしていた人でも3日目になるとブドウ糖不足にも体が順応できるようになったと考えられます。

ここらの医学的理論は、私や脳外の石原先生と一緒に毎週糖質制限の勉強会をしているスタッフ(外来MAや栄養士)なら十分に理解できると思いますが、一般の方々には少々理解が難しいかと思われますので分かりやすく解説します。

若干正確さには欠けますが、あまり正確に説明するとある程度の生化学、生理学的な基礎知識がないとかえって理解しづらくなるので、分かりやすさ優先で説明しますが、大筋は以下のように理解してもらって間違いありません。

ヒトの細胞はエネルギー源としてブドウ糖、たんぱく質、脂肪の3種類を利用しますが、よほどの飢餓状態が続かない限り、たんぱく質をエネルギー源として利用することはありません。普通に炭水化物中心の食事をしている人は炭水化物にたっぷり含まれている糖質、つまり「ブドウ糖」をエネルギー源とし、これがなくなると脂肪を分解して得られる「脂肪酸」や「ケトン体」という物質を利用します。

人体には60兆個(最近では37兆個という説が有力)の細胞があると言われていますが、すべての細胞が「ブドウ糖」や脂肪の代謝産物である「脂肪酸」や「ケトン体」をエネルギー源として利用できる訳ではありません。各細胞が利用できるエネルギー源は、

赤血球 → ブドウ糖のみ

脳細胞 → ブドウ糖とケトン体

その他の多くの細胞 → ブドウ糖、ケトン体、脂肪酸

という具合になっています。

これは生化学、臨床医学の基本中の基本であり医学部の学生が使う生化学の教科書にも書いてあるレベルの話ですが、テレビのバラエティ番組などではどこぞの大学の教授が出てきて「脳細胞はブドウ糖しか利用できないので糖質を制限するのは危険です」と堂々と言っているのには笑ってしまいます。

話を戻します。

普通にお米やパン、麺類など炭水化物中心、つまり糖質中心の食事をして主にブドウ糖をエネルギー源とした生活をしていても、夜間など食事の間隔が長く開いている時間帯はブドウ糖が不足しており、必然的にケトン体や脂肪酸をエネルギーとしています。ただし、肝臓には糖新生という機能があり、血液中のブドウ糖が減少すると脂肪などを原料として肝臓がブドウ糖を作ってくれます。

そこで上記に記した人体細胞のエネルギー利用可能状況を考えてください。血中のブドウ糖が少なくなって肝臓の糖新生で作られたブドウ糖は真っ先に赤血球に利用されることになります。赤血球はブドウ糖だけがエネルギー源ですから。次にブドウ糖は脳細胞にも回されそうな気がしますが、脳細胞は人体で最もエネルギーを消費する細胞ですので、糖新生のブドウ糖ぐらいでは到底足らず、脳にとってはもう一つのエネルギー源であるケトン体を必然的にエネルギーとして利用することになります。赤血球と脳細胞以外の細胞はエネルギー源として全てを利用できますから、ブドウ糖が足りない時はケトン体なり脂肪酸なりをエネルギー源としています。

 

通常1日3回の食事をしている時は上記のようなシステムで問題なく回っています。しかし、ファスティング中は突然口から入ってくるブドウ糖が無い状態になるので、ブドウ糖以外のエネルギー源である「ケトン体」や「脂肪酸」の需要が高まる訳ですが、ファスティング初期に見られる頭痛を始めとした症状は脳に十分なブドウ糖やケトン体が供給されずに起こる症状と考えればわかりやすいと思います。

ブドウ糖が少なくなると肝臓がせっせと糖新生を行ってブドウ糖を作りますが、ブドウ糖の優先順位は赤血球→脳細胞→その他の細胞となりますので、いきなり何食も絶たれるとブドウ糖は赤血球に回るのが精いっぱいで脳細胞のエネルギー源はケトン体中心になりますが、脳に供給されるケトン体が不十分だと様々な症状が出ると考えられます。

ブドウ糖やケトン体には適正な血中濃度というのがあり、単位は省略しますがブドウ糖は80~110、ケトン体は30~120です。

私自身は普段から厳密な糖質制限をしていますので、赤血球以外の細胞はケトン体や脂肪酸をエネルギー源としているはずです。事実普段の私のケトン体値は1000前後あり、正常値(30~120)の約10倍あります。したがって私の場合はいきなりファスティングをしても脳細胞から見たらいつも通りで、ケトン体は血中に十分にありますから何も症状は出なかったのでしょう。ファスティング初期に頭痛などが出た人はそこの切り替えが上手くいかず、3日目になるとようやくブドウ糖中心のエネルギーからケトン体中心に切り替わったと考えられます。

したがって、若杉屋のファスティングプログラムでも「ファスティング開始2日前から減食するように」となっているのも理に適っていると思いました。

以下は糖質制限の総本山、京都高雄病院理事長江部先生のブログからですが、糖質制限時の様々な体調不良の原因として次のような記載があります。

糖質(ブドウ糖)への依存度が高い人ほど、制限した時に負の影響をより強く感じるものでしょう。精神的な依存の影響も大きいですし、身体が脂肪酸(ケトン体)をうまく使えるようになるまで多少の時間が必要です。

今回、ファスティングを体験してみての私の素直な感想は、糖質制限は健康に生きて行くための必要十分条件ではありますが、心身ともにより高いレベルの人生を送るには、糖質制限をしつつ定期的にファスティングするのがベストではないかと思いました。

もしかすると不食が最高なのかもしれませんが、、、。

まあ、不食はムリとしても肝臓に週1日のアルコール休肝日が必要なように、胃腸を始めとした消化器系内臓にも定期的なファスティングが必要なのではないかと感じました。

個人的には今回のファスティングは改めて自分の生活習慣を見直す機会になり、またファスティング期間中はすべての情報(スマホ、PC、テレビ、新聞)を遮断することが出来、森の中で自然の音に耳を傾け心静かにこれまでの人生を振り返り、そして今後の人生を考えるいい機会にもなりました。スケジュールの 調整がつけば是非もう一度、出来れば定期的にこのファスティングに参加してみたいと思っています。

皆さんもどうですか?

 

唯一残念だったのは、私が全ての情報を遮断していたファスティング期間中にソフトバンクが日本シリーズ優勝、それも劇的な逆転勝利で決めてしまっていた事でした。

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